燕三条 工場の祭典は、10月6日〜9日までの4日間、金属加工の産地、新潟県燕三条地域で開催されるオープンファクトリーを軸としたイベント。
i1 三条ものづくり学校
工場の祭典のための情報・交通の拠点となるメイン会場とのことで最初に訪問。
元々は小学校だった場所らしく、教室を事務所として使うなどスタッフも多く、いろいろな展示が行われている。
また三条市、燕市それぞれの市の職員の方が受付をされていて、行政も一体となってイベントを支えているという事がよくわかる。
白いダンボールを積み上げて受付の壁とブースをつくっていて、そのダンボール面にピンクのストライプをプロジェクターで投影。
全体の統一感をうまくデザインしていた。
体育館には中川政七商店の大日本一博覧会 第4回 新潟博覧会なるものが行われていて、同商店の物販ブースがある。
ステージや松岡正剛さんと中川淳さんの対談ビデオなども。
JR燕三条駅から、今回の工場の祭典のために20分に1本程度の間隔でバスが出ている。
情報収集のほか、レンタサイクルの貸し出し所もあり周辺探索の拠点になる。
14 包丁工房 タダフサ
パン切り包丁で有名なタダフサさんの工場。
数年前から中川政七商店が商品開発に加わる事で大きく業績を伸ばしたとのこと。
シャッターにビジュアルアイデンティフィケーションであるストライプと、工場の通し番号「14」を大きく施してある。
入口にはアウトレット商品の販売が行われており、その付近にはテントや軽食を提供するトラックなど。
例年多くの人が訪れるらしく、それに対応できるようなしつらえがしてあった。
綺麗にレイアウトされた「タダフサの庖丁ができるまで」というチラシも配られ、
スタッフからの声を聞くためのイヤフォン(鍛造などの製造過程で工場内は騒音が大きいため)が全員に配られる。
分かりやすい丁寧な説明と、職人さんに近い距離で見学できるのが印象的だった。
15 角利製作所
大道具専業メーカーとして60年にわたり道工具を作り続ける。
主にかんなや和ノミ、洋ノミを製作しているが、売上の多くは海外が占めるとのこと。
かんなの刃の製造過程は、途中工程まで自動化された機械を用いるが、最後の刃付けの段階は
必ず職人さんが手で仕上げる。髪に触れるだけで切れるようになるまで磨く。
20 レジエ
アクセサリー専用のチタン溶解炉を開発し、その技術をもとにアクセサリーの製造販売を手がける。
チタンは高温でさまざまな元素と反応しやするなるため、酸素・窒素を遮断した真空状態にした炉の中でアーク溶解する。
建物の外壁に貼られたイベントのストライプ(それぞれの工場の方が自分で貼る)は、
角度や感覚が異なって味わいがありながらも、きちんとサインとして機能している。
ビジュアルアイデンティフィケーションの力強さを見た。
04 三条スパイス研究所
東京押上にある「スパイスカフェ」の伊藤一誠シェフ監修の食堂。
建築は手塚貴晴さんとのこと。イベント用のスペースや設備も完備されていて、開放的で居心地も良い。
夜には普段の「三条スパイス研究所」ののれんに、ピンクのストライプのビジュアルをプロジェクターで投影し、
いつもとは異なる「祭典」の雰囲気をうまく演出している。
67 山崎研磨工業
鏡面研磨や、難素材であるチタンの研磨技術などを持つ。
お猪口のような小さいサイズの鏡面磨きの体験教室を行っていた。
ステンレス素材の鏡面研磨には仕上げに1000番台の研磨剤を使用するとのこと。
球の内側が鏡面になっている様はとても綺麗。
(その鏡面の度合いのようなものを測る指標は無いとのこと、荒さを計測することはあるらしい。)
69 磨き屋 栄治
半自動の研磨機によるミラー仕上げ、つや消し仕上げ技術をもとに、ボウルやケトルなどを扱う。
工場の祭典ではボウルの研磨過程を職人さん自ら説明、実演してもらう。
荒削りや磨きなど工程によってバフを変え、延べ棒のような大きさの研磨材を使い分ける。
64 サクライ
主にホテル向けの洋食器の製造販売を手がける。
町中にある工場の中でも、第2工場(見学させてもらった工場)まである規模の大きな会社だった。
単に磨く技術だけでは無く、SUS316Lステンレスを窒化させる表面硬化技術を用い、従来の3倍以上の高耐擦傷性を実現。
カトラリーの良し悪しを見分けるには、側面まできちんと磨けているかを見れば分かりやすいとのこと。
一度に18本程度磨ける大型の機械を用い、丹念に研磨しているため金属表面の角が無く、口触りがなめらか。
傷の付かない輝いているカトラリーは本当に綺麗だった。
40 諏訪田製作所
近年デザイン性の高い爪切りが高く評価されている須和田製作所。
郊外にあるため工場の敷地も非常に大きく、「SUWADA OPEN FACTORY」という名前の施設を既に持っている。
工場の見学は時間毎に一定数を受け付けるバックヤードツアーを行っていて、それ以外は作業の工程をガラス越しに見学する。
その他、アウトレット商品、オリジナル商品(メモパッドやトートバッグ)の販売を行うショップを併設している。
建物、インテリアは黒一色に統一されており、職人さんの使う機械なども、自ら塗装して黒くしたとのこと。
雨の中にも関わらず数十台の駐車場は満車になるほどで、人気の高さが伺えた。
42 マルナオ
黒檀やゴールドなどを用いた高級箸、スプーンなどを製造、販売を行う。
こちらも郊外にあるためか広い敷地にガラス越しに見るオープンファクトリーと、販売店舗を併設する。
見学場所は薄暗くおしゃれな雰囲気で何故かジャズが流れる。
距離が遠いため職人さんと見学者とのコミュニケーションは難しいように感じた。
工場をあくまで「コンテンツ」として捉え公開する、という印象。
61 スノーピーク
本社社屋にはオフィスや工場、ショップの他、5万坪のキャンプフィールドを併設し、
アウトドアの文化自体を根付かせていく企業の姿勢が感じられた。
見学できたのは本社内のオフィスと「焚き火台」の製造工場。
もともとこの本社内工場では、複数の商品を製作していたが現在焚き火台の需要が大きく、
焚き火台専用の工場として運用しているとのこと。
天高が10mほど、教室の3倍程度の広さの場所に、プレス機、溶接、検品、梱包などの全ての工程を収めている。
71 玉川堂
一枚の銅板から打ち出しによって茶器や酒器、花器などを製造、販売する。
銅による器具は使い込むほどに色味が濃く変色し、手に馴染んでいく。
女性の職人さんも6名ほどいるとのこと。
金鎚もほとんどが職人さん個人仕様のもので、修行により自分にあった形、サイズを見つけていく。
壁に掛かっているのは鳥口(とりぐち)という名の道具で銅器を引っ掛ける鉄棒。
明治時代、玉川堂が名付けた製作道具。全て玉川堂の手づくりで、器の形状によって使い分ける。
ピンクストライプのビジュアルアイデンティとか感想とか
- ポスター、Web、工場のサインからスタッフのTシャツまで、全てが統一されたビジュアルで非常に力強い。
- 参加する工場へは、ピンクのテープ何巻き、ポスターや段ボール、Tシャツを配布。個々の工場でサインなどを製作。
- デザイナーの手が入らなくても、多少ずれてもアイデンティティを表現できるグラフィックが素晴らしい。
- 工場内立ち入り禁止を示すのはピンクのPPテープ。鮮やかな色味で薄暗い工場に華やかさを与える。
- A4変形横開きのガイドブックが全体の位置関係や詳細の地図があり、見やすい。
- 紙媒体の持つ一覧性は大事だと感じた。全体を把握したり予定を立てるのはWebだと難しい。
- ものづくり学校は中川政七商店の販売店舗の色合いが強い。受付の方からお勧めの工場を聞く。
- 三条スパイス研究所では運営スタッフの方や関係者も多く集まり、夜まで解放されている集える空間の重要性を感じた。
- 研磨という同一カテゴリーの工場を複数見ても、それぞれの特徴があり興味深い。ガイドブックの写真が似るので見せ方難しい。
- 郊外と都市部の工場で大きく比較が出来たのは良かった。
- 郊外へはレンタカーが無いととても行けない。
- 普段から工場をオープンにしている所が、今回どこまで特別に見られるようになったのかわかるといい。
- 職人さんと直接対話できる、距離の近い見学はとても面白い。工場が大きくなるとその距離が徐々に離れていく。
- 駅を電車で移動する事が何度かあったが、本数がとても少なく驚いた。タクシーを使う。
- 段ボールは重ねてサインになるし、ラップを巻けば雨にも耐えるしとても良い素材だと思う。安い(らしい)し。
- 同じ期間に三条バルなど、近いエリアで他のイベントも行われていて町全体が活気に溢れていた。
- 行き交う人の多くが「工場の祭典」の見学者で、イベントの雰囲気の醸成の一因になっていたのでは。
- 案内の人、職人さんなどスタッフの方が皆さん丁寧でとてもホスピタリティが行き届いていたと感じる。